古代ギリシア展

雨の上野に出かけた。東京国立博物館で催されていた「古代ギリシア~時空を越えた旅~」が終わってしまうので、ざんざん降りの中を、意を決して訪ねた。雨に閉じこめられた博物館は何重にも時空を越えてしまって、神々と人間の絡み合う空と土と海が、今ここにやってきていた。

目を引いたのは「アルテミス像」、清廉の女神。カッと目を据えて歩み進んでくる。私と同時に像を見上げた若い女性が、思わず「わぁ!」と声を上げた。暗い室内でも、彼女の目が大きく開いて輝くのが見えた。動かずにいる彼女とアルテミスを眺めて、時間が止まった。空を進む勇姿に心躍る。

ギリシア悲劇「ヒッポリュトス」では、アルテミスに全霊を捧げた青年が、美の神アフロディテの怒りを買って悲惨な運命に陥る。「大人」になるのを拒絶した青年への激しい罰則。人間は清廉には生きられず、エロスに捕らわれれば破滅への道。

もうひとつ、立ち止まってうっとりしたのが「抱擁するエロスとプシュケ」。子どもの姿の二神が、互いの腕を取りあい口づけをしている。エロスの背には鳥の羽、プシュケの背には蝶の羽がぴょんと立ち上がっていて、空中で戯れている姿に映る。

ギリシアの神々は、人間に介入するものの、結局のところ冷たく無関心で、死すべき人間のドラマは、余興に過ぎない。ただ憧れて、彼らを見上げるのみ。



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